<元メイドの見た植物男>





主に頼まれた買い物を両手に抱え、勤める館へ戻る

そういえば―――

買い物に出るときに、入れ違いで館に来た、客、だろうか
緑の髪の、優しい表情をした男性―――
30代後半ほどだろうか、あまり見たことの無い顔だ。

私が頭を下げて挨拶をすると、その男は人好きする笑顔を見せて、大きく礼をした

「こんにちは!」

はきはきとした挨拶で、外見に似合わず幼い印象を受けた。
気味の悪い趣味の主の友人とは思えない人だ。
私はくすくすと笑いながら、館を後にした。

嗚呼、もう夕方になってしまった。
あの男性はもう帰ってしまっただろうか。








きゃあ
などと、生娘のような声を上げてしまった。年甲斐も無く、情けない。

主に帰宅を知らせようと部屋にはいると、悪趣味な部屋と机の上に腕がごろりと転がっている。
ああ! この人はいつもこうだ!!
気持ちが悪いものをいつも私にみせるのだ!!
犬の頭部のオブジェに、小指でできたネックレス!
青い水晶でできた人体模型に、虫がぎっしり詰まったクッキー!
いつもいつも、気持ちの悪いものばかりをコレクションしている!
そして、今度は腕だ!! 腕がごろりと無造作においてある!!

給料がいいから今まで我慢していたが、もう限界だ!!
今日か明日には辞表を机において出て行ってやる!!



「ああ、まてまて、これは人の腕などではないよ」


主は下卑た笑みを浮かべて、腕を持ち上げ、断面を私の方向へ見せる。
そこは緑色の植物のようなものがぎっしりとつまっていた。
気味が悪い!!
中身がどうとか、そういう問題ではない!!純粋に、ひたすらに気持ちが悪い!!!


「すごいと思わないかね。外見は、まったく持って普通の人間の腕だ!! まごうことない、腕そのものだ!
 だけど、違うんだ。 これは、植物なんだよ」


知ったことか!!!


「きみは、外に出る前に男を見ただろう。そいつの腕さ」


私は胸を押さえて、息を整えながら腕を見る。
男。

ああ、あの…

……


…………?


「人と接することが少ないのかな。私が、友達の腕がほしい。
 君の腕がほしい。といったらくれたよ?
 さすがに、ナイフで腕を切り落としたときの絶叫は、私も体が震えたものだ」


意味がわからない
意味がわからない
意味がわからない

困惑する私に気がついたのか、主は植物でできた腕と私を交互に、それはそれは楽しげに見る。


「さっきの男はね、どういうことか、体が植物でできているんだ」

……
やはり、意味がわからない


「以前、人里の方向はどこかと尋ねられて、案内するよといったら、彼の周囲に花が咲いたんだ
 いやぁ。驚いたね。それ以来話をしたり、会う機会を増やしているのさ」


先ほどの人好きする笑顔を見せた男性。
彼の中身が―――植物だというのだろうか。


「頼んだら、どんな花でも植物でも咲かせてくれるんだ
 真冬でも桜を、チューリップを、夏に紅葉を
 絶滅してしまった植物も






 けしの花だってね?」




思わず後ずさりをする。
何を言っているんだ、この人は―――



「腕を切り落としても、時間がたったら彼の腕は元に戻ったんだ
 いやぁ、素敵だ……次は、頭部でも貰おうかな」



辞めよう
この職場、辞めよう
今日辞めよう
黙って辞めよう



気分が悪い














私があの館から逃げるように辞めてからきいた風の噂である。

なんでも、あの主(元)は麻薬だの、違法なコレクションの入手方法があまりにもえげつないということで、国のメスが入った。

すると、そこには首が吹っ飛んだ主の姿があったという。



……そのことを、あの植物でできているという男性は知ったのだろうか
そもそも、あの男性はいったい何者なのだろうか。
植物でできて、色んな花を練成することができる。


思うに


主は、手を出してはいけない何かに触れてしまい



俗に言う天罰を受けたのではないだろうか






おもどり