さぁさ。暇な人は足を止めて私の噺をご静聴!
興味がない人は、右から左へ聞き流しながらご静聴!
胡散臭い鐘を持った、胡散臭い吟遊詩人の、胡散臭い詩を聞いていきませんか?
◆鐘鳴らしの詩人◆
ああ、ありがとう、ありがとうございます!
皆さん、相当にお暇なんですね!
あっすいませんすいません! 嫌味とかではないんですよ?! ホントホント!
そんな目で見ないでください! 見ないでください!
聞いてくださるだけで嬉しいですありがとうございまーす!!!
人類最高! イェイ!!
えー……それでは。こほん。
さて、私が詠うはこの麗しき大地!
誰が名づけたかこの大地はブルーマーブル。
青い空に青い海が語りかけ、大地は海のうえを闊歩する!
北は冬の神が居眠りをし、南では夏の神が歌を歌おう。
そして春と秋は世界中を駆け回る。
だれが定義つけたかブルーマーブルの創造主
名も語られず、偶像崇拝も許されぬ、それはただの創造主。
創造主が作りたもうたブルーマーブル。
何故ブルーマーブルは生まれ、何故こんなにも恵まれているのだろう。
他の星は枯れ果て、太陽の星を受け存在を我らに示すのが精一杯だというのに!
なぜ創造主はこの世界を我らに与えたのだろう!
ブルーマーブルのある民は自由に生き、創造主の与えた大地を謳歌した。
自然を愛し、創造主の産んだ愛と優しさに満ちた空と大地と命を愛した。
そしてそれを形に残し後世に伝えようとした。
ブルーマーブルのある民は大地を崇拝し創造主を崇めた。
彼らは神に一歩でも近づき、神に仕えたいと思うようになった。
そして彼らは炎を起こし、氷を産ませるという妖術を起こすようになった。
俗に言う魔術の始まりだ。
ブルーマーブルのある民は選ばれた民と創造主を越えることを誓った。
工具を使い、人の作りし機械で創造主の真似事を始めた。
彼らもまた創造主でありクリエイターであった。
そう、人々は創造主をどこかで意識して歴史を紡いだのです!
ただ、創造主を楽しむ、崇める、越える、人により彼らの付き合い方は違った。
この大地を潤す人は徒党を組み、手を取り合い、集落を作り、それは国へなった
それにより国は手を取り合い、国は嫌い、国は争い、不毛な大地にし、豊饒な大地にしていった。
小さな小競り合いも、大きな戦争も歴史に隙間無く文字を残して刻む。
被害の大きさに関係なく、それは文字で残り、歌で残り、脳はそれだけで覚えていく。
当事者はことを大きくして文字を大きくして傷口をえぐり、遠くのものは文字を見て他人事。
歴史など、文字。
戦争など、文字。
脳内だけで繰り広げる絵空事。
現実などそこには無い。憧れと畏怖のショートストーリー!
人事だから、自分に関係ないから、人は語り継ぎ、わかった気がするとしたり顔で熱く語り合いそして人事だ!
さぁさその人事を詠い語り楽しむ遊び人、自称吟遊詩人という偉そうな肩書きを持つ、それが私だ。
それが私、リフウ。鐘を狂い鳴らし高々に詠い、声枯れるまで歴史を語り、物語を詠い、英雄を崇め、広めゆく。
さぁさ私は詠おう!
歴史を詠い、人を詠い、自然を詠い、大地を詠い、空を詠い、自らを詠おう!
今日の詩は昨今人々に恐怖を与えた死体喰い!
私が詠うには少しいまどき過ぎるだろうか?
それでも、世間に、世界に与えた衝撃は少なくないだろう。
それほどまでにセンセーショナルな
【怪物】だった。
ある戦争に、突如現れた怪物。
その怪物は、何度殺されても甦って来た。
そう、皆さんご存知の通り―――死体を喰って。
怪物は殺された後、近くにある人間の屍骸を取り込み黄泉より戻る!
たとえ、四肢を切り離されようとも
頭を粉々に砕かれようとも
火で炙り黒く炭化しようとも
全身を槍で貫かれ穴だらけになったとしても
水に沈め紫に変色し膨れ上がらせても
死体を傍に置けば元通り!
死体が傍になければどうか?
その怪物の亡骸を、何もない荒野に捨てた。
それは、3週間ほど死体のままだった―――はずだった。
しかし、怪物は蘇った。
周 囲 の 大 地 を 腐 ら せ て
腐り、ぐちゃぐちゃと異臭を放ち、足を捉える大地
そう、怪物は死なないのだ。
死体が無いなら、大地を殺し死体にさせた。
恐怖を感じ、その怪物を捕らえた国は世界中から怪物を殺せないか、殺せるものはいないか集った。
しかし、とらわれた怪物は、ある騎士と娘により逃亡する。
そして―――怪物を殺そうとした国は、滅亡する。
全てを統治し、全てを従わせ、全てをひれ伏させ、全てから崇められ、全てから恐れられる。創造主を崇めまた創造主に最も近い国。デジュールボウ国
その王―――絶対王が、命じたのだ、国に攻め入ることを。
何故王が命じたのか、知ることは出来ない。
王の言葉は絶対なのだから。
ただ、国は一夜で滅亡した。その事実は変わらず、そして世界中の人が知ることとなる。
そして、死体喰いは野に放たれ、行方知らず。
もしかしたら、貴方の傍にいるかもしれません。
その怪物が……
だ、なんていったら、どこぞの三文ホラーの話だ。
だが
だが
だが?
そ の 怪 物 は 一 体 何 を し た ?
怪物と罵られた
怪物と処罰された
怪物と蔑まれた
なら怪物は何故罵られた?
死体を喰うから?
なら、何故その怪物は殺されねばならなかった?
その怪物は
最初に死んだのは何故だ?
そもそもその怪物はどんな格好をしていたのだ?
どのような顔を?どのような腕を?どのような足を?どのような胴体を?
四肢? 六本足? 目はいくつ? 口はどうなっていた?
そう
誰 も 答 え ら れ な い の だ 。
ほら、お姉さん。死体喰いの話は知っているでしょう?
ならば、どんな外見をしているか知っていますか?
知らない?
なら、お兄さんは?
坊っちゃんは?
おじいさんは知っているでしょう?
ほら
だれもしらない
我々は、根本的なところを知らず
根本的なものを勘違いしている。
死体喰いは
本 当 の 怪 物 だ っ た の だ ろ う か ?
◆
「おや、お嬢さん」
詩人は、去り行く観客から一人の娘に声をかける。
「え?」
「お一人で? 私の詩を聞いてくれていたんです?」
「えっと……ごめんなさい。本当に私、今さっき通りかかったばかりで……」
「そうですか! それは残念! こんなに美しいお嬢さんが、お一人で詩を聞いてくれた!
それだけでも、天に登る気持ちだったのに。彼氏はいないんですか?」
「あ、あはは……彼氏なんていませんよ。あの人、すぐどっかにいっては、ある日ふらっと帰ってきて……
いつも一人ぼっちみたいなものなんです」
「そうですかそうですか! いや、失敬。ごきげんよう!」
「はい。ごきげんよう」
そういって、深々と頭を下げる。
娘……黒髪の娘、イナルセは早足で立ち去る。
イナルセの姿が消えた後
詩人は呟く。
「死体喰いの正体は誰も知らない。知ろうともしない
それが、どんな過ちか、気付くことなく。
正体がわからなければ、神も、怪物もいっしょさ」
青い瞳と、青い髪をなびかせた、その詩人は鐘を鳴らす。