「はい。スファレとは何をかくそうこの私ですが」
突如現れた警官隊に、特にやましいこともいかがわしいこともしていないのだが、
こういったポリスメンが集まると、何となく両手を上げていってしまう。
天に誓って、私は悪事など働いていない。
しいて言うなら、親のお米の量を減らして自分の分に入れたことがあるくらいだ。
しかしそれくらいで裁かれて溜まるか。私はシロだ!!
◆元メイドと目玉神◆
以前使用人として遣えていたおえらいさんが死んだ。
そのおえらいさんの悪趣味がイヤでイヤでたまらなくてやめたのだが。
どうやら最後の嫌がらせを私に残して逝ったらしい。
できることなら人に迷惑をかけずに死んでいただきたいものだ。
最低限私には迷惑をかけない方向で。
「遺産が私に。ですか。何かの間違いではないでしょうかねぇ」
悪趣味なコレクションの持ち主だったことは深く深く覚えている。
植物がぎっしり詰まった腕に、犬の頭部のオブジェに、小指でできたネックレス
青い水晶でできた人体模型に、虫がぎっしり詰まったクッキー
思い出しただけでも吐き気がする。彼が死んだのならば、そっと音もなく処分していただきたい。
そもそも、前の職場の主人が亡くなった場所に何故私が連れてこられたのか。
いやな思い出しかない応接まで、見覚えのある文字の遺書を読まされたのだ。
その内容は
私がもし亡くなった際、遺産は全て使用人のスファレに譲ろう
彼女が私の元から去ったとしても
いらん!
激しくいらん!!
「いたく貴方のことを気に入っていたそうで」
いや、私は大嫌いだったんですけどね!!!
「残された日記に貴方のことが記されていました。
今まで雇ったメイドのなかで、もっとも長く仕え
そしてもっともリアクションが面白かったそうな」
我慢強い私の素晴らしい性格が人生で損をしてしまった!!
もう私我慢なんぞしないぞ!!!!
今度から割り込みとかしてやるからな!!!!
違法なコレクションとおぼしきものは回収済み、
えげつない回収をした被害者にはちゃんと返し、謝礼分のものも渡してあるそうな。
警官隊仕事ハエェな。つかそういう仕事もするのか。世の中すげぇことになってんな。
「で、こちらのものは全て貴方のもの、と言うことで」
警官隊とともにいた弁護士が私の肩をそっと叩く。
「え……いらないんですけど……」
「そうですか? かなりの値打ち価格のものやお宝もあると思いますし
少しは目を通しておいたほうがよいかと」
「いやぁ、昔ここで働いていたときはお値打ち価格を引いて余るほどのキモイ物しかなかったんで」
「……こういうものって、処分するのにもお金が必要なんですよ?」
「ぐ!!」
最後の最後まで面倒なこと残しやがる!!!
残念ながら、絶賛休職中の私はまとまった金なんぞ持っていない。
親からの仕送りを泣きながら削る毎日だ。母親の涙が眼に浮かんでつらい。
もともと、調理師になる勉強をしながら働く場所を探しているわけで―――
次に働く場所を探してからやめよう、と心の底から後悔をしている。
◆
この館も貴方のものです。書類もしっかり書いて置いて下さいね。
そういい残して弁護士や警官隊は私を置いていった。
世の中投げやりなことばっかりだ!!!
そもそも人が死んだ家に住めるか!!!!
首が吹っ飛んだ大金持ちの家だぞ!! たたりとかって言うレベルじゃねーぞ!!!
……といいつつも、貧乏就職活動中の人間というものは、恐怖よりも住処や金を求めるものである。
超スピードで運ばれた私の荷物を、そっと見つめる。
―――私はいったい何をやっているというんだ―――
頭をかかえてその場に座り込む。
家具も、装飾も、ある程度のコレクションもそのままである。
遺族はいないらしい、一代でここまで栄えた貿易家。なかなかに有能だったのであろう。
趣味は私が受け付けるものではない。が。貰えるものは貰っておこう。
気味が悪い100%だが、この際目を瞑ろう。
メガネをかけなおし、立ち上がる。
コレクション、一度は目を通しておくべきだな……
あまり見たくもない、思い出したくないブツパラダイスなのはわかっている。
ただ、臭いものにはふたをしろとは言うがふたをしたまま隣でぐっすり寝れるほど私の肝は座っていない。
地雷は早いところ片付けてしまうべきだ。
今日から、少しずつ地雷を削っていこう。そうしよう。
最低、今日はどんなものがあるかだけ把握しておこう―――
ここに仕えていた時の記憶を頼りに、ふらふらと倉庫へ向かう。
片付けのときとかに何度か出入りはしたが、正直中のものにあまり目を通したことはなかったな。
主人がここの物品を管理していて、埃がつかないようにとか、ある程度の掃除くらいしかしていなかった。
はぁ、と小さくため息をつき、倉庫の扉に手をかける。
――――遅かったではないか。ずっと待っておったというのに
「どやかましいいいいいいいいわぁああああああああッ!!!!!」
――――????!!!! なにをする!!!
倉庫を開き、薄暗い中から女性の声が聞こえてくる。
苛立ちが最高潮の私は、恐怖とか違和感とか悲鳴も忘れ、怒号を上げながら壁を蹴りつけた。
「なんなんですか!! 勇気を出して倉庫に着てみたら?! 人の声?!
馬鹿ですか? 私がなにしたってんですか!! でてきなさい!! ぶっとばしてさしあげますよ!!!」
幽霊か? モンスターか? 妖怪か?
残念ながら、この屋敷の主人に見せられたコレクションでそういった恐怖心などとっくの昔に捨て去っている。
むしろ、こういった怪奇現象が起こらないほうがおかしいですよねーーーーーーーーー!!!!!
私は用心のため持ってきた箒(貧弱極まりない)を構えて大声で叫んだ。
「怪物でしょうかこの屋敷に住み着いた幽霊でもどんときなさい!!!
一発ぶん殴って黙らせて売り飛ばして差し上げますよええ、えぇ!! 高値で売れるかなーーーーー??!!」
―――ま、まてまて! 乱暴な娘じゃな。妾の姿をとりあえず探しなさい。
「貴方が出てくるべきではございませんか? 待っていたのでしょう? さっさと姿を見せなさい
即効売り飛ばしますから。この館に来たのが私だったのが運のつきでしたねぇふっふっふ」
ほうきでとんとんと肩を叩き、薄暗い倉庫を練り歩く。
―――乱暴な娘じゃな……姿を見せたくても見せれぬこの乙女心をわからんのか
「わかんないのでさっさとでてきて下さいよ乙女さん」
―――正確に言えば、動けないんじゃが……娘よ、その紫の……
そうそう、その布を剥がしてもらえないかい?
「え、嫌ですけど」
―――話を進める気はないのかこの小娘が!!!!
「え、ございませんけど。最初っからそっちが一方的に待ってたとかストーカー宣言して
で話を進めさせろとか探せとか上から目線で舐めてるんですか。もう二度と入りませんよ。いいんですか?」
―――それはやめてぇええええええ!!!! 妾を日のあたる場所に連れてってーーーーー!!!!
「焼いて差し上げましょうか? 日じゃなくて火でこんがりと焼いて差し上げましょうか?」
―――あぁん意地悪! 意地悪!! 妾のようないたいけな美少女を燃やすとは…
絶望した!! 妾は絶望したぞぉおおおお!!!
……流石に意地悪をしすぎたか。
そもそも、この姿も見えない偉そうな声だけの奴と遊んでも苛立ちをぶつけてもどうしようもない。
しかたがなく、指定された紫の布を剥ぎ取る
―――ようやく話を聞く気になってくれたか、小娘よ
透明な瓶詰めの、一つの目玉がぎょろり、とこちらを向いた。
「へぇ。綺麗な目玉さんですねぇ」
ふっふっふ、と瓶詰めの目玉を見つめる。
くるくる、と目玉は瓶の中で回る。
水がしっかり浸っている。いったい何年入れ替えてないのだろうか。
…でも、綺麗だからそこそこに管理してるのか?
それとも、何らかの魔力の影響?
―――おや、驚きもしないのかい?
「目玉が瓶にはいって喋っててなにが怖いのがあるんです?」
―――おもしろいのう。おもしろいのう。前からここを出入りする娘はたくさん見ていたが
やはり、お前さんが一番面白いのう
ああ、全く。
今日一日で変な奴に好かれやすいという事実を知ってしまった気がする。
私はもっと自由に生きるぞ!!!!
これからの私は自由に生きる! 人様に迷惑をかけない程度に生きる!!!!
と言うか目玉だけで一体どうやって喋っているというんだ。
テレパシー的なアレ? 心に問いかける? 目玉が?
そもそもどういうメカニズム?
早いはなしがなにこれ。なんなんすかこれ。
「でも、貴方はあまり高く売れそうにありませんねぇ」
―――まだ私を売る気でいるのか!! いい加減にせんか!!
「私は現金の話が好きですけどなにか?」
―――待て待て待て!! 妾の言葉を!! 話を聞け!!!!
「はいはい。さっさと教えておくんなまし」
―――ふっふっふ。よくぞ聞いてくれると決心してくれた!!
妾の正体は―――
「さっさと言いなさいよ」
―――妾は、神の目だ
決定。コレヤバイ奴だ
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